１０年来の願い

２１年前に夫が勝手に一戸建てを購入して、駅まで平坦に歩けて大きなスーパーや商店街、金融機関も徒歩で行けて学校も近かったマンション生活が一変した。家は急な坂の上だから自転車が使えない、なのに徒歩１５分かかる駅まで行かないとお店がない、郵便局も駅前、銀行は隣の駅まで行かないとない、学校も駅前。そんな土地に越したばかりの春に母が入院。電車とバスを乗り継いで片道１時間４０分の病院、車なら３５分で着くが免許がない。一気に地獄に突き落とされた。夫は車通勤で１５分、しかもドアツードア。勝手な人間だとは思っていたがここまでとは、と呆れた。

１２年前に末っ子が出て行ってから、ワンコと夫婦だけの生活になり、母の度々の入院で懲りて一念発起して取った免許のおかげで買い物やら何やら、とても楽になった。でも、そのワンコも１０年前に急死してあの土地に住み続ける意味がなくなり、それからというものずっと「膝がだんだん弱ってくるから駅近のマンションに越したい」「ここにいたら車がないと生活出来ない、車ばかりだと足が萎える」と言い続けてきた。しかし、雑草一本抜かないくせにマンションは嫌だと取り合ってくれず、もう正直限界に近かった。

去年突然、駅近に土地を買って家を建てると言いだした時、私の力では止められず息子に頼んで契約寸前に思いとどまってもらった。息子が見るだけでも見てみたら？と内覧を申し込んだこのマンション、見たら夫の方が乗り気になり、私としては低層の３階くらいを考えていたから慌てたけれど「これを逃したらもう私はあそこで歩けなくなって絶望して死んでいく」と思って諸手を挙げて賛成。

そして実際に越してみて、何よりありがたいのは「掃除が楽」なことだと痛感している。なんたって家の中に階段がないのだから。ワンフロアの掃除ってなんて楽。いちいち掃除機を担いで階段を上り下りしなくていい。玄関もフラットで廊下で靴底はきれいになって帰宅するから掃除機で一緒に吸えちゃう。何と言っても床面積が半分以下だからダイソンの充電式、一度の充電で全部終わる。労力の差は歴然だ。これなら余力でモップがけだってしようという気になる。１０年来の願いが叶ってホントに嬉しい。